1 はじめに
相続法改正により遺留分権利者の権利の呼称は遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求に変わりました(これについては弁護士コラム:【遺産相続】遺留分減殺請求から遺留分侵害額請求へをご確認下さい)。
今回は,遺留分侵害額の算出方法について具体例をもとに説明します。
2 ルール
以下の①→②→③の順に計算することになります。
①遺留分算定の基礎となる財産額=被相続人が相続開始時に有していた財産の価額+贈与額-相続債務額(民法1043条第1項)
②個別的遺留分額=遺留分の基礎となる財産額×個々の遺留分権利者の遺留分率(1042条第1項)
③遺留分侵害額=個別的遺留分額-(贈与額+遺贈財産額+遺留分権利者が相続分に応じて取得すべき遺産額)+遺留分権利者が負担すべき相続債務額(1046条第2項)
3 生前贈与
①遺留分算定の基礎となる財産額について、相続人に対する贈与(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与)は、相続開始前の10年間にされたものに限定されます(1044条第3項)。
もっとも、相続開始の10年以上前になされた贈与であっても、遺留分権利者に損害を加えることを知ってされた場合は、当該生前贈与は遺留分算定の基礎財産に含まれます(1044条第1項第2文)。裁判例では,①父が遺産の大半であることを知ったうえで贈与を行い,かつ②将来遺産が増加しないことを予見していたと言える場合は,損害を与えることを知ってされた贈与に該当するとされています。なお、②については、贈与したタイミングが働き盛りの時であれば②を満たしませんが、退職して年金だけで生活しているのであれば②を満たすことになります。
4 具体例
遺産が7000万円、相続人甲1人、15年前に甲に1000万円贈与、遺産全部を相続人ではない乙に遺贈、相続債務なしのケースで考えます。
①遺留分算定の基礎となる財産額は、7000万円となります。なお、15年前の贈与1000万円は基礎財産に含まれません(1044条第3項)。
②個別的遺留分額は、7000万円×1/2=3500万円となります。
③遺留分侵害額は、3500万円-1000万円(特別受益財産額)=2500万円となります。なお、ここでの特別受益財産額には、15年前の贈与も含まれます。
5 最後に
以上、遺留分侵害額の計算方法についてご説明しました。
遺留分侵害額請求をされた場合は、別記事弁護士コラム:【遺産相続】遺留分侵害額請求をされた場合をご確認ください。