遺留分減殺請求→遺留分侵害額請求について
例えば,太郎さんが全ての不動産を長男二郎さん相続させる旨の遺言を書いていた場合,もう一人の相続人である長女サクラさんは1/4の遺留分が認められます。
サクラさんが太郎さんに遺留分を請求する場合,改正前は,この請求は「遺留分減殺請求」と呼ばれていましたが,改正後は「遺留分侵害額請求」に変更されることになりました。
では,なぜこのような変更がされることになったのでしょうか。
相続法改正前
改正前は,遺留分に関する権利を行使すると,遺留分を侵害する部分が当然に無効となり,無効とされた部分に相当する権利が遺留分権利者に移転するとされていました。太郎さんの例では,遺留分に関する権利が行使されると,遺言により二郎さんに移転した全ての不動産について1/4の権利移転が無効となり,これにより1/4の権利がサクラさんに移転することになります。遺言による権利移転を一部無効にするという意味で「減殺」という文言を使うことにしたので「遺留分減殺請求」とされたのです。
しかし,例えば太郎さんはもともと事業家で,遺産である不動産のほとんどが事業用の不動産であったとします。太郎さんは長男二郎さんに事業を承継して欲しいとの思いから上述の遺言を作成したのですが,サクラさんが遺留分減殺請求権を行使すれば,事業用の不動産について二郎さんが3/4,サクラさんが1/4の割合で共有することになります。そして,二郎さんは事業経営が悪くなってきたので事業用不動産を売却してその代金を運転資金にしようとしても,サクラさんの共有持分1/4がネックとなり円滑に不動産を売却することが出来ない可能性があります。
そもそも,遺留分制度は,サクラさんのような遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算を目的とする制度です。この目的を達成するためには,遺留分権利者にその侵害額に相当する金銭を返還させることで十分といえます。
相続法改正後
そこで,改正法では,遺留分を侵害する遺言による権利移転の効力は維持したうえで(無効とはせずに),遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する金銭債権が発生することにしたのです(民法第1046条第1項)。
そして,改正前は,遺言による権利移転は一部無効になるので「減殺」という文言になっていましたが,改正後は,遺言による権利移転は無効とはならず維持されるので,「減殺」という文言は不適切となり,「遺留分侵害額請求」と改められることになりました。
以上,遺留分侵害額請求についてご説明しました。
もっとこの制度を知りたいという方はイーグル法律事務所にご相談ください。