1 はじめに
熟年夫婦の事案で,妻が別居後,夫に対し、婚姻費用分担調停を申し立てとします。夫は65歳でしたが年金をもらっていなかった場合、婚姻費用の算定は実額を基準にするべきか、それとも本来であればもらっていた年金額をも実額に加算するべきかが問題となります。
2 考え方
総収入は原則として実収入を基準としますが、例えば当事者の一方が無収入の場合、公平の観点から、その潜在的稼働能力を考慮して賃金センサスを用いて算定する場合があります(詳しくは、弁護士コラム:【離婚問題】婚姻費用請求の相手方が無職の場合をご確認ください)。
この考え方からすれば、本来もらえる年金も加算するべきと思われます。では裁判例ではどうでしょうか。
3 東京高裁令和元年12月19日決定
この決定でも、基礎収入の算定に際し、本来もらえるはずの年金を加算して計算するべきとされました。理由は、年金収入は夫婦共同生活の糧とすることからすれば、夫側の一方的判断で65歳以降受給しないことになったからといって、これを前提に婚姻費用の算定をするのは妥当でないからです。