1 はじめに
平成25年、最高裁判所の大法廷は、非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの2分の1とする規定は憲法14条に反する違憲規定であると決定しました。この大法廷決定が相続法改正のきっかけになったとされています。なぜきっかけになったのかについて整理します。
2 事例
被相続人は、妻Xとの間に長男Yがおり、愛人との間に子Zが一人いました。遺産は自宅(評価1000万円)、預貯金200万円でした。妻は自宅に引き続き暮らしたいと考えています。長男は結婚してマイホームを所有しています。
3 大法廷決定が出る前
各人の法定相続分はXが600万円、Yが400万円、Zが200万円になります。XとYが協力すれば、600万円+400万円=1000万円となるので、Xは自宅を取得し、引き続き暮らすことができます。
4 大法廷決定が出た後
各人の法定相続分はXが600万円、Yが300万円、Zが300万円となります。XとYが協力したとしても900万円にしかならないので、Xが自宅を取得しようとすれば、XはZに対して代償金として100万円を支払う必要がでてきます。代償金が払えなければ換価分割せざるを得ません。つまり、大法廷決定後、Xのような配偶者は自宅に住み続けることができなくなるリスクが高まることになりました。このリスクをなくすため、相続法は改正されたのです。
5 改正の要点
相続法改正は多岐にわたりますが、配偶者の保護との絡みでは、配偶者居住権と持戻し免除の意思表示の推定規定が重要です。
6 配偶者居住権
事例では、Xは自宅に住み続けるためには、100万円を身だししなければなりませんでした。これは自宅の所有権が1000万円だからです。もっとも,単に自宅に住み続けることができる権利を新たに創り出し、その権利の価値を所有権よりも低くすれば、Xは身だしなしに自宅に住み続けることができます。例えば配偶者居住権が600万円であれば、Zに代償金を支払うことなく自宅を確保できるのです。そこで,改正法において配偶者居住権が創られることになりました。配偶者居住権について,詳しくは別記事弁護士コラム「相続法改正・配偶者居住権①」をご参照下さい。
7 持戻し免除の意思表示
事例では、被相続人が20年以上結婚生活を続けてきたXに対して自宅を生前贈与したとします。これはいわゆる特別受益にあたるので、遺産分割協議の際、持戻しがなされることになります。もっとも、持戻し免除の意思表示があったと認められれば、持戻しはなされません。この立証責任はXが負っています。Xが持戻し免除の意思表示があったことを立証できなければ,自宅は持戻しとなります。
そこで,改正法では、Xのように20年以上結婚生活を続けてきた一方配偶者に対する贈与は,持戻し免除の意思表示が推定されることになりました。つまり、Zが免除の意思表示がなかったことを立証する責任を負うことになります。そのため、基本的には持戻し免除の意思表示が認められるので、Xは引き続き自宅に住み続けることができるわけです。持戻し免除の意思表示については弁護士コラム:「相続法改正・持戻し免除の意思表示推定①」をご参照下さい。
8 最後に
以上、相続法改正について説明しました。お困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。