1 最判昭和49年7月19日
家事従事者とは、性別、年齢を問わず、現に家族(他人)のために家事労働に従事する者をいいます。そして、家事従事者が交通事故に遭い、家事労働をできなくなった場合、休業損害が認められています。
すなわち、最判昭和49年7月19日は、家事労働の対価性について次のように述べています。「結婚して家事に専念する妻は、その従事する家事労働によつて現実に金銭収入を得ることはないが、家事労働に属する多くの労働は、労働社会において金銭的に評価されうるものであり、これを他人に依頼すれば当然相当の対価を支払わなければならないのであるから、妻は、自ら家事労働に従事することにより、財産上の利益を挙げているのである。一般に、妻がその家事労働につき現実に対価の支払を受けないのは、妻の家事労働が夫婦の相互扶助義務の履行の一環としてなされ、また、家庭内においては家族の労働に対して対価の授受が行われないという特殊な事情によるものというべきであるから、対価が支払われないことを理由として、妻の家事労働が財産上の利益を生じないということはできない。」
一人暮らしの場合、休業損害は認められません。例えば、被害者がお年寄りの女性で、すでに夫が亡くなり、子どもたちは別に暮らしていた場合、休業損害は認められません。
理由としては、専業主婦の休業損害が認められるのは自分以外の者に対して家事労働を提供することに金銭的な価値が存在することにあるところ、一人暮らしの場合の家事労働は自ら生活していくため日常活動であり、誰かに家事労働を行ったとはいえないからです。
2 基礎収入
家事従事者の基礎収入は、原則として、事故発生時の賃金センサスの女性の学歴計・「全年齢」で計算します。
例外として、高齢者(おおむね65歳~70歳)は、賃金センサスの女性の学歴計・「年齢別」平均賃金を基準に計算します(例えば東京地裁令和3年12月24日・自保ジャーナル2113号)。
これは、高齢者の場合は体力が落ちているので、高齢者以外に比べて家事労働に対する金銭評価に差をつけるべきであるという考え方に基づきます。
兼業主婦の基礎収入は、現実の収入と賃金センサスを比較して、高い方が基準となります。そのため、賃金センサスの額に現実収入を加算することはできません。この点について詳しくは、別記事弁護士コラム:【交通事故】兼業主婦の休業損害をご参照下さい。
男性が家事労働を行っていた場合(いわゆる専業主夫)の基礎収入はどのように考えるべきでしょうか。例えば、サラリーマンの夫が病気を患い稼働することができなくなったので、妻が外に働きに出て、夫が主婦業を行っていた場合、夫に家事休損が認められるかという問題です。
裁判例では、夫婦で年金収入で暮らしていたところ、妻が股関節の手術を受け、10分も立ち続けることができないため、夫が妻の家事に従事していた事例において、夫に女性と同じ基準で家事休損を認めました(大阪地裁令和3年5月26日)。
3 休業日数(期間)
休業日数(期間)は、現実に家事労働に従事することができなかった日数(期間)のことをいいます。
比較的長期にわたる休業の場合、裁判例では、受傷の部位・程度、治療状況等からみた傷害の軽快化及び業務内容・生活状況等に応じて、通院期間中については段階的に休業損害額を減じたり、全期間にわたり一定割合に制限されています。
ここでいう「生活状況等」とは、具体的には、①被害者の年齢、②被害者の事故前の身体の状態、③同居家族の人数、④同居家族の属性を考慮することになります。例えば、未成熟子がいれば家事負担が大きいといえますし、子が中学生以上であれば家事負担は相対的に小さいといえます。また、同居の家族が社会人で、日中仕事していた場合、被害者にかかる家事負担は大きいといえます。
次に「受傷の部位・程度、治療状況等からみた傷害の軽快化」とは、例えば、怪我の部位が利き腕と反対だったら家事労働の制限は少ないといえます。他方、顔の醜状痕だけであれば、そもそも家事労働の制限はなかったとも評価することが可能です。また、後遺症がつくほど大きな怪我であれば、家事労働の制限は大きかったと評価できることになります。
以上をの検討を踏まえて、実際の裁判例では、①通院期間全体の20~30%と計算する考え方、②事故直後は80~100%とし、その後に割合が逓減する考え方があります。
なお、傷害の内容がいわゆるむちうちの場合は、「交通事故による頸椎や腰椎の捻挫による症状は、受傷直後に最も強く、組織損傷の修復に伴って経時的に改善するのが通常である」という経験則が働きますので、②の考え方を採ることもあります。
4 最後に
以上、家事従事者の休業損害についてご説明しました。
交通事故でお困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。