1 はじめに
物損事故の場合、被害者は、事故車両を修理しても事故歴がついたことにより車両の価値が下落したとして、いわゆる評価損を請求することがあります。
評価損については、3つの点が問題になります。
第1に,そもそも請求できるのか
第2に,どのような場合に請求できるのか
第3に、請求できる金額はいくらか
が問題となります。
以下,順番に説明していきます。
2 評価損は認められるのか
まず、評価損の請求は認めない考え方もありますが、実務上は、認めるのが一般的です。
理由としては、中古車市場では、事故歴がある車両の評価額は下がることが経験則として認められているからです。
3 評価損が認められる要件
では、評価損はどのような場合に認められるでしょうか。
①初年度登録からの期間、②走行距離、③損傷の部位(程度)、④車種、⑤購入時の価格、⑤レッドブック中古車小売価額などが考慮されます。
なお、損傷の程度について、骨格部分(例えばフレーム・ピラー)の変形にまで及んでいることが必要とする見解があります。示談交渉では、損保会社は骨格部分まで損傷がないので評価損0と主張してくることもあります。
しかし、骨格部分まで損傷していなくても評価損が認めている裁判例もあります。損傷の程度は考慮要素の一つにすぎません。
4 裁判所の傾向
まず、高級な外国車・国産車の場合、初年度登録から5年(走行距離が6万㎞)を超えてくると、評価損は認められないことが多いです。
高級外国車の評価損については、別記事弁護士コラム:【交通事故】高級外国車(ベンツ)の評価損をご確認ください。
また、国産車の場合、初年度登録から3年(走行距離が4万㎞)を超えてくると、評価損は認められにくいとされています。
そして、大衆国産車の場合でも評価損が認められる場合があります。
すなわち、熊本地裁令和4年2月8日(自保ジャーナル2121号)では、本件事故当時の走行距離が2193㎞であったこと、左センターアウターピラーが損傷したこと(車体の骨格部分と評価された)、レッドブックの同種車両の時価は127万円であったこと、初年度登録から事故まで約1年3月しか経過していないことを考慮し、修理費用の15%を評価損として認めました。
さらに、ピラーが変形したケースでは「修理しても技術上の限界から回復できない潜在的な欠陥が残存したと認められ」るとした裁判例もあります(大阪地裁令和3年5月26日)。
5 評価損としていくら請求できるか
評価損としていくら請求できるかについてです。
諸説ありますが、修理費用の10~30%とする考え方が多数と思われます。
6 評価損で揉めたときは訴訟提起も検討するべき
示談交渉では、保険会社は、一切認めない、あるいはごく僅かな評価損しか認めないと主張してくることがあります。この場合、速やかに訴訟提起することも検討するべきです。
当事務所が過去に扱った事例では、裁判例では修理費用の20%程度の評価損が認められる事案において、保険会社は一貫して評価損なしと主張していました。
そこで、当方がやむを得ず訴訟提起したところ、保険会社は、第1回期日前、こちらの主張どおり評価損を支払うと折れてきたため、訴訟外で示談し、訴えを取り下げたケースもありました。
7 事故車をローンで購入していた場合
使用者である被害者は評価損を請求することはできません。
請求できるのは事故車の所有権者であるローン会社になります。
訴訟となった場合、使用者が評価損を請求するためには、ローン会社から評価損の損害賠償請求権を債権譲渡してもらうことが必要です。
例えば、原告は、訴訟提起前、ローン会社との間で、「原告車についての本件事故の評価損の損害賠償請求権が○会社にあると判断される場合、○会社は、原告に対し、同損害賠償請求権を譲渡する。」といった内容の債権譲渡契約書を取り交わすことが考えられます。
また、車検証上、所有者がローン会社となっていた場合でも、事故前、車両ローンを完済していた場合は、完済証明書を提出すれば、評価損を請求することができます(札幌高裁令和4年2月4日・自保ジャーナル2121号)。
8 最後に
以上、物損事故における車両の評価損についてご説明しました。
交通事故でお困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。