1 はじめに
改正相続法では,持戻し免除の意思表示の推定規定が設けられました。
この推定規定は,遺贈や贈与がされた場合を対象としています(民法第903条第4項)。
ところで,特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)は,判例では,特段の事情が無い限り,遺産分割方法の指定と解釈されています。
そのため,特定財産承継遺言には,持戻し免除の意思表示の推定規定は適用されません。
以下,このことから派生する問題をご説明します。
2 具体例
太郎さんの相続財産は,居住用不動産が5000万円,預貯金が5000万円でした。
相続人は,配偶者ヨシ子さん,長女サクラさんでした。
太郎さんは,婚姻30年目の節目に,ヨシ子さんに対し,居住用不動産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)を作成したとします(以下「事例」といいます)。
3 あるべき結論と解釈
事例では,太郎さんの生前の遺志やヨシ子さんの生活保障を考慮すれば,結論としては,遺贈の場合と同様,ヨシ子さんは,居住用不動産5000万円,その財産2500万円(=5000万円×1/2)を取得するのが望ましいといえます。
しかし,特定財産承継遺言には持戻し免除の意思表示の推定規定が適用されないので,同規定により上記の結論を導出することは出来ません。
そこで,事例において,太郎さんの特定財産承継遺言には,遺産分割方法の指定と相続分の指定の二つの意味合いが含まれていると解釈するべきと考えられます。
このように解釈することにより,太郎さんは,ヨシコさんに4分の3を,サクラさんに4分の1をそれぞれ相続分の指定をしたことになります。
これは,持戻し免除の意思表示の推定規定が適用された場合と同じ結果になります。
4 最後に
以上,持戻し免除の意思表示推定についてご説明しました。
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