改正相続法では,遺言の利用を促進する方策が多く盛り込まれることになりました。
具体的には,法務局で自筆証書遺言を保管する制度を設けたほかに,自筆証書遺言の方式を緩和することになりました。
今回は,自筆証書遺言の方式緩和について説明します。
自筆証書遺言の方式緩和について
1 具体例
もともと,遺言者は,自筆証書遺言を作成する場合,全文を自署しなければなりませんでした。
例えば,遺言者が,田畑など不動産100筆を有していたとします。
この場合でも,特定の者に全ての不動産を相続させる遺言(特定財産承継遺言)であれば,なんら問題ありません。
2 全文自書の不都合性
しかし,遺言者が,相続人ごとに不動産を分配する遺言を作成するとします。
この場合,分配する不動産を特定しなければなりませんので,財産目録を作成する際,登記事項証明書のとおり記載しなければなりません。
このように,遺産が多数で,複数の相続人に遺産を分散させる場合,全て自書しなければならないとすれば遺言者の負担となります。
これが,自筆証書遺言の利用を阻害する要因とも考えられていました。
3 財産目録は自書不要へ
そもそも,遺言書は,本文と財産目録のパートに分けることができます。
このうち,財産目録は対象財産を特定するだけの形式的なものです。
この部分について,遺言者が書かなければいけないとは限りません。
そこで,改正相続法では,自筆証書遺言の財産目録については自書しなくてもよくなりました(民法第968条第2項)。
そのため,ワードで作成した財産目録が添付された遺言書も有効になります。
4 財産目録の偽造・変造防止
財産目録の自署性を緩和したことにより,自筆証書遺言が利用しやすくなりました。
その一方でリスクもあります。それは,偽造,変造の問題です。
具体的には,①推定相続人の1人が自筆証書遺言の財産目録を自分に有利なように差し替えたり,②財産目録の裏面に他の財産を付け加えるリスクです。
この点,改正相続法では,①②のリスクに対し,次のとおり対処しました。
まず,①のリスクに対しては,遺言者は自署していない財産目録の全ての用紙に署名押印しなければならないとしました。
これにより,推定相続人が,自分に有利な財産目録を差し替えたとしても,署名押印がないので有効になりません(①に対応)。
また,②のリスクに対しては,財産目録が両面に及ぶときはその両面に署名押印をしなければならないとしました。
これにより,推定相続人が,裏面に他の財産を付け加えたとしても,署名押印がないので有効になりません(②に対応)。
5 最後に
以上,自筆証書遺言の方式緩和についてご説明しました。
遺言書でお困りの方は,イーグル法律事務所までご相談ください。