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弁護士コラム:【遺産相続】家事事件手続法の「仮分割の仮処分」

2020.07.31

「仮分割の仮処分」の要件緩和

 

弁護士法人イーグル法律事務所
1 遺産分割前の預貯金債権の行使

各相続人は,遺産分割前に,裁判所の判断を経ることなく,遺産に含まれる預貯金債権を行使することができます(民法第909条の2)。
この制度では,同一の金融機関に払戻請求可能な金額の上限は150万円となっています。
そのため,この制度の利用場面は,被相続人の医療費や葬儀費用の支払いなど,小口の資金需要があるときになります。

 

2 大口の資金需要がある場合

では,大口の資金需要があるときはどうすればよいでしょうか。
これについて,家事事件手続法は,仮分割の仮処分という制度を設けています(同法第200条第3項)。

仮分割の仮処分は改正前からありましたが,「急迫の危険を防止」する必要という要件を満さなければなりませんでした。
しかし,これは文言的にあまりにも厳格であったので,今回の改正で要件を緩和することにしました。
具体的には,要件緩和後は,相続財産に属する債務の弁済,相続人の生活費の支弁などの事情により遺産に属する預貯金債権を行使する必要がある場合,となりました。

 

3 仮分割の仮処分の注意点

このように仮分割の仮処分は利用しやすくなりましたが,一般の方がいざ使おうとするとハードルがやや高いと思われます。それは本案係属要件の問題です。
すなわち,仮分割の仮処分を得るためには遺産分割の審判又は調停の申立てを先行させる必要があることです(家事事件手続法第200条第3項)。
つまり,仮分割の仮処分のみ申し立てることは出来ないのです。
たしかに,遺産分割調停又は審判の申立ては,仮分割の仮処分の申立てにおける申立資料が重なっていますし,申立手数料は1200円と低廉ではありますが,一般の方にとって家庭裁判所に2度申し立てるのはハードルが高いと思われます。

また、仮分割の仮処分は仮の地位を定める処分なので、家庭裁判所は共同相続人全員に対して陳述の機会を与えなければなりません(家事事件手続法107条)。そのため、申立てから審判までには相応の期間を要するとされています。

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