遺留分侵害額請求をされたら?
1 具体例
太郎さんは,全ての不動産を長男二郎さんに相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)を残して亡くなりました。
この場合,もう1人の相続人である長女サクラさんには4分の1の遺留分が認められます。
そこで、サクラさんは,二郎さんに対し,遺留分に相当する金銭を支払うよう請求することができます(民法第1046条第1項)。
2 履行遅滞となる時期
遺留分侵害額請求により発生した金銭債務は、期限の定めがない債務となります(民法412条3項)。そのため、サクラさんが二郎さんに対し遺留分侵害額請求をした場合、二郎さんは請求を受けた時点から履行遅滞となり,遅延損害金を負担することになります。
なお、遺留分侵害額請求は具体的な金額を示して請求する必要があると解されています。請求時点で正確な遺留分侵害額は分からないと思われるので、請求時点で把握できる限りの情報に基づき金額を示して請求すれば足りると思われます。
3 遺言執行者は遺留分侵害額請求の相手方となるのか
太郎さんが残した遺言書に遺言執行者の定めがあり、その者が就職の承諾をしたとします。この場合、サクラさんは遺言執行者に対し遺留分侵害額請求をしなければならないのでしょうか。
この点、たしかに、遺言執行者は遺産の管理権を有しますが(民法1012条1項)、遺留分侵害額請求により発生する金銭債権は遺産とは切り離されているので、それに遺言執行者の管理権は及びません。そのため、遺言執行者は遺留分侵害額請求の相手方とはなりません(解釈に争いあり)。
4 遺留分義務者は金銭の代わりに現物を渡せるか
二郎さんは,相続した不動産の中から不要な不動産を選択して,サクラさんに給付するとことができるでしょうか。これは、遺留分義務者に対し現物給付の指定権が認められるかという問題です。
仮に遺留分に現物給付の指定権を認めた場合,二郎さんは,いらない不動産を,サクラさんに押し付けることができます。サクラさんが当該不動産を欲すればよいですが,そうでなければ迷惑な話です。つまり,受遺者に現物給付の指定権を認められば,遺留分侵害額請求権を不当に弱めることになります。
そのため、遺留分義務者に現物給付の指定権を認めないことになりました。そうすると、不要な物は遺留分義務者が引き受けることになります。
5 相当の期限の付与
このように,二郎さんは,サクラさんから遺留分額侵害請求された場合、サクラさんに対し遺留分侵害額相当の金銭を支払わなければなりません。もっとも、相続した不動産を直ちに換価することができず,また手持ち資金が乏しい場合は,どうなるでしょうか?
この点について、法によれば,二郎さんは,裁判所に対し,金銭債務の支払いについて相当の期限の供与を求めることができます(民法第1047条第5項)。
ここで、相当の期限とは、抽象的には、財産を換価し又は財産を担保に入れて金銭を借りるために必要な期間となります。
また、前述したとおり遺留分侵害額請求により発生した金銭債務は請求を受けた時から履行遅滞となりますが、裁判所が相当の期限を付与した場合、履行遅滞は遡ってなかったことになります。
このように、二郎さんは、裁判所に相当の期限の付与を認めてもらって、相当期間中に、相続した遺産を換価したり、それを担保に借用し、サクラさんに遺留分侵害額に相当する金銭を支払うことになります。そうすれば、二郎さんは履行遅滞に陥りません。
6 金銭の代わりに不動産を譲渡する合意があった場合
二郎さんは、遺産の中から不要な不動産を指定して、サクラさんに金銭の代わりに一方的に渡すことはできません。もっとも、サクラさんがよいというのであれば、二郎さんはサクラさんとの合意に基づき当該不動産を譲渡することができます。
前述のとおり、遺留分権利者が遺留分侵害額請求権を行使した場合,遺留分義務者は新たに金銭債務を負担することになります。そして、遺留分義務者が、遺留分権利者との間で、金銭を支払う代わりに不動産を譲渡する合意をした場合、この合意は代物弁済合意となります。
そのため、遺留分義務者には譲渡所得税が発生する可能性がありますので,注意が必要です。
7 最後に
以上,遺留分侵害額請求をされた場合の対応についてご説明しました。
遺留分の件でお困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。