1 債務不存在確認訴訟と確認の利益
例えば、追突事故により脳脊髄液漏出症などを発症した場合、通院期間が長期化することになり、被害者(被告)は、加害者(原告)から債務不存在確認訴訟を提起されることがあります。
この後、被告が原告に対して損害賠償を求めて反訴提起した場合、裁判所は、原告(反訴被告)に対して本訴である債務不存在確認の訴えを取り下げるよう勧告することが多いと思われます。その理由としては、反訴は給付訴訟であり、給付訴訟は既判力だけでなく執行力もあるのに対して、債務不存在確認訴訟は確認訴訟であり、既判力しかないので、債務不存在確認訴訟を維持する実益が無くなり、そのため訴えの利益(確認の利益)が無くなるからと説明されます。
2 本訴を取り下げた後に反訴が取り下げられるリスク
もっとも、被告(反訴原告)は反訴の訴えを原告(反訴被告)の同意なしに取り下げることができます(民事訴訟法261条2項ただし書)。そのため、原告(反訴被告)が裁判所の勧告に従い債務不存在確認の訴えを取り下げた後、被告(反訴原告)が反訴を取り下げてしまう事態も想定されます。とくに被告の代理人が何回か変わっている場合、現代理人が判決まで訴訟追行をせず、本人が反訴を取り下げてしまう可能性もあります。
そのため、原告は、直ちに債務不存在確認の訴えを取り下げることはせず、口頭弁論が終結し残すは判決言渡しとなった段階で(反訴が取り下げられるリスクが無くなったタイミングで)、取り下げることが多いと思われます。
なお、原告が債務不存在確認の訴えを取り下げる前に、被告との間で反訴を取り下げない旨の訴訟上の合意をする方法もあり得るとの指摘もありますが、実務上、訴訟上の合意をする事例があるのか気になるところです。
また、裁判所は被告(反訴原告)が反訴の取下げを同意なくできることの問題点を把握していると思われ、それにも関わらず債務不存在確認の訴えを取り下げるよう勧告するのは、未済事件を減らしたいという思惑からではないかという指摘もあります。
3 反訴が一部請求の場合
例えば、反訴が明示的一部請求の場合、本訴である債務不存在確認の訴えは確認の利益がなくなり訴え却下となるのかが問題となります。
この点について、既判力は残部には及ばないので、残部の債権の不存在の確認を求める限度で確認の利益が認められるとする裁判例があります(さいたま地裁令和4年3月15日・自保ジャーナル2125号)。