1 東京高裁令和2年4月28日決定
警察官を投げ飛ばして傷害を負わせたという傷害、公務執行妨害保護事件について、非行事実の事実認定が争点となりました。
2 解説での様々な指摘について
「家庭の法と裁判」37号の解説によれば、本件は観護措置が取られていない在宅事件であり、しかも少年院送致などの重い処分が想定されないケースだったようです(90頁)。
証拠調べは家庭裁判所が行うとされています(少年法14条1項)。ところが原審は、付添人、裁判所の順に、警察官に対する証人尋問を行いました。解説では、証人尋問の順序を疑問視しています(90頁)。
また、本件は、非行事実に傷害罪も含まれ、傷害罪は「長期三年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪」にあたるので、検察官が審判に関与できるケースになります(少年法22条の2第1項)。そして、本件は非行事実が真剣に争われた事案だったので、裁判官は、判断権者に徹するため、検察官関与決定をした上、検察官、付添人の順に尋問を行い、最後に裁判官が補充的に尋問を行うべきであった、とも指摘されています(90頁)。
さらに、少年審判は通常1人の裁判官が担当しますが、本件のように非行事実が真剣に争われている場合は、裁定合議決定の上、3名の裁判官による合議体で審判をする(裁判所法31条の4)という選択肢もあった、そうすることにより証拠調べの順序や証拠の吟味を多角的に判断することができた、とも指摘されています(90頁)。
3 付添人の立場から
非行事実に争いがある事件の場合、たとえ当該事件が在宅事件で保護観察見込みだとしても、付添人としては、的確に非行事実の認定がなされるため、裁定合議決定をするよう上申したり、検察官関与決定をするよう上申することを検討しなければならないことを、本決定は示唆するものです。