1 はじめに
令和3年4月21日、相続土地国庫帰属法が成立し、同月28日、公布されました。
この法律は、令和5年4月27日から施行されています。
2 趣旨
例えば、東北で生まれて大学進学とともに関東に移住し、就職・結婚を経て関東で定住することになった相続人Aがいたとします。Aの父は、預貯金や株式など金融資産のほかに、東北のある場所に土地を持っていたとします。
Aは相続放棄すれば金融資産を含め一切の財産を取得することができなくなりますので、相続の承認をし遺産を包括的に承継しました。
しかし、関東で暮らすAは東北の土地を相続したいと思うでしょうか。遠方のためおよそ使わない、しかも負担でしかない土地を相続という偶然の事情により所有してしまったばかりに、わざわざ手間とお金をかけて管理したいとは思わないでしょう。また、わざわざ費用を負担してまで相続登記をするでしょうか。答えはいずれも「いいえ」になるでしょう。
このような問題が、相続登記未了、住所変更未了の土地を生む原因となり、ひいては土地の有効活用ができないことにも繋がっていました。
そこで、上記ケースに即していえば、Aが、法務大臣の承認(行政処分)を得た上で、国庫に負担金を納めることより、当該土地の所有権を国に直接移転できる(✕土地所有権を放棄できる)制度が創設されることになりました。
これにより、今後は国が当該土地の所有権を有して管理することになるので、土地の有効活用が促進されることになります。
3 申請権者、審査手数料
承認申請できる者は、相続または遺贈により所有権の全部または一部を取得した相続人になります(その他細かい規律は割愛します)。
なお、相続人以外の者で遺贈により土地を取得した者は、承認申請できません。
審査手数料として、土地1筆につき1万4000円の納付が必要となります。
4 土地の要件
土地の所有権が国に移転することにより、移転管理コストを国(ひいては現在および将来の国民の負担)に転嫁することや、将来的に土地の所有権を国庫に帰属させる意図の下で土地管理をおろそかにするモラルハザード発生のおそれを考慮する必要があります。
そこで、通常の管理処分に過分の費用・労力を要する土地は、申請が却下(法2条3項・政令2条)ないし不承認(法5条1項・政令3条)とされることになります。
例えば、却下要件に該当する土地は、建物が存在する土地、土壌汚染のある土地になります。不承認要件に該当する土地は、危険な崖がある土地、他人によって使用されている土地についての承認申請は、却下ないし不承認とされることになります。
なお、この法務大臣の却下、不承認処分に対しては、行政不服審査・行政事件訴訟で不服申立てが可能となります。
5 負担金
国庫帰属地は基本的に利用の需要がなく、国が永続的に管理しなければならない可能性が高い土地です。そして、この管理コストは国ひいては国民全体が負担することになります。
他方で、申請の承認を受けた者は、土地の管理コストから免れることができます。
そこで、法は、国の負担と承認を受けた者の受益を考慮し、承認を受けた者に対し、将来の管理コストの一部を負担させることとしました。
具体的には、承認を受けた者は、土地の性質(宅地、田畑、森林など)に応じた標準的な管理(巡回、草刈り、看板・柵の設置など)費用を考慮して算出した10年分の土地管理費用相当額の負担金を納付しなければなりません。その金額は、土地1筆につき20万円が基本となります(法10条1項)
6 取得希望のない不動産の遺産分割について
ところで、遺産分割において、評価額が極めて低額であり管理に多額の費用を要する不動産について、相続人の間で取得希望者が誰もいない場合、評価額を0円として評価合意し、特定の相続人に相続させる方法があります。
仮に、当該不動産が更地の場合であれば、相続土地国庫帰属法が施行された後、取得した相続人が負担金を納めて、国に所有権を移転させるという手段が可能となります。