1 はじめに
交通事故に遭った場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)が残存する場合があります。では裁判所はどのような場合にPTSDと判断するのでしょうか。
2 診断基準
PTSDの診断基準は以下の4つになります。
①自分又は他人が死亡し又は重症を負うような外傷的な出来事を体験したか
②外傷的な出来事の苦痛の記憶が反復的に繰り返されているか
③外傷的出来事に関連する刺激を持続的に回避しているかどうか
④持続的な覚醒亢進症状があるか
裁判例では、この診断基準を厳格に適用するべきとされていますので、PTSDと認められる事例は多くありません。主治医がPTSDと診断したからといって、裁判所がそれを踏襲するわけではないのです。
裁判では、相手側から、カルテ、行動調査書、被害者のブログやSNS等が提出され、②~④が否定されるケースがあります。
3 非器質性精神障害
労災では、非器質性精神障害について、7級、9級、12級、14級、非該当の5段階で等級認定をすることになっています。
そのため、仮にPTSDが認められなかったとしても、非器質性精神障害が認められることがあります。
もっとも、等級としては、7級が出ることはまずなく、9級や12級と認定される例も少ないと思われます。
また、非器質性精神障害の場合、適切な治療を受けることにより症状が完治する可能性がある障害とされているので、労働能力喪失期間はむちうち症と同じく限定される傾向にあります。
さらに、個人の有する精神的脆弱性が損害の発生や拡大に寄与したとされ、素因減額されるケースも多いことに注意が必要です。
4 まとめ
PTSDは診断基準に基づき厳格に判断されるので、裁判においてPTSDと認定されることはほぼありません。もっとも、非器質性精神障害に該当する可能性はあります。該当したとしても、労働能力喪失期間が制限される可能性、素因減額の可能性を考慮する必要があります。