1 はじめに
交通事故に遭った被害者は健康保険を利用して治療を受けることができます。
以下、健康保険を利用した場合の流れについて説明します。
2 具体例
Nさんは、軽自動車を運転していたところ、Sさんが運転する普通乗用車と出合い頭で衝突し、骨折するなど大ケガを負いました。症状固定日までの治療費は300万円でした。
Sさんは、任意保険に入っておらず(自賠責保険のみ)、資力はありませんでした。
3 健康保険の利用を検討する
Sさんは任意保険に加入しておらず、支払能力に不安があります。そのため、Nさんは、自賠責保険からしか損害の賠償を受けられません。
自賠責保険からの傷害部分の賠償については、治療費、休業損害、慰謝料などの合計120万円が上限となります。自由診療で治療を受けるとなれば、すぐに120万円を超えてしまい、超えた分はSさんが手出しをしなければならなくなります。
そこで、Nさんは、健康保険を利用することにより治療費の負担を極力減らすべきです。
なお、病院側は「交通事故の場合は健康保険を利用することはできない。」と説明するケースもあるようですが、それは誤りです。また、病院によっては、自賠責の定型用紙による診断書、診療報酬明細書、後遺障害診断書を書いてもらえない場合があるので、健康保険を使う前に事前に病院側と相談する必要があります。
4 第三者行為傷病届を提出する
Nさんは、健康保険を利用して治療を受ける場合、所轄の全国健康保険協会の都道府県支部長又は健康保険組合に対して、第三者行為傷病届を提出する必要があります。
第三者行為傷病届の書式は、最寄りの全国健康保険協会の都道府県支部等で入手可能です。
添付書類としては、交通事故証明書(コピー可)、(物件事故として届け出ている場合は)人身事故証明書入手不能理由書、事故発生状況報告書、念書、同意書、損害賠償金納付確約書、(示談が成立している場合は)示談書、負傷原因届(回答票)となります。
5 健康保険の自己負担額
Nさんは、病院で、自己負担分として300万円×30%=90万円を支払う必要があります。
なお、健康保険組合又は市町村は、Sさんの自賠責保険会社に対して、210万円を求償することになります。
6 被害者請求と求償請求の競合
Nさんは、Sさんの自賠責保険会社に対して、負担した治療費90万円について被害者請求をすることができます。
ところで、自賠責保険の傷病部分は120万円が上限となります。
そのため、Nさんの被害者請求と健康保険組合又は市町村の求償請求のいずれが優先するかが問題となります。
最高裁判例によれば、被害者請求が優先するとされています。
被害者請求は被害者に自賠責保険の限度額までは最低限保障するために設けられたものです。最高裁判例はこの趣旨を重視したものと思われます。
よって、NさんはSさんの自賠責保険会社に対して被害者請求をし、先に90万円を回収することができます。
反対に、健康保険組合又は市町村は、自賠責保険会社から30万円(=120万円-90万円)しか回収できません。
7 健康保険と労災保険との比較
仮に、Nさんが今回の事故で労災保険を使うことができたとします。
この場合、Nさんは、健康保険と異なり、治療費の自己負担分なしに治療を受けることができます。
8 最後に
以上、交通事故の被害者が健康保険を利用して治療を受けた場合の流れについて説明しました。
交通事故でお困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。