1 はじめに
ある夫婦が婚姻中に夫名義で住宅ローンを組んで、夫名義でマンションを購入したとします。
その数年後、夫婦は離婚することになり、親権者となる妻と子どもが引き続きマンションで暮らし、一方で夫は別にアパートを借りて暮らすことになりました。
そして、夫が住宅ローンを支払っていくことになりました。
では、夫が、婚姻費用や養育費の協議の際「本来支払うべき婚姻費用や養育費から住宅ローン返済分を全額控除するべきだ。」と主張したとします。
はたしてこの主張は認められるでしょうか?
2 住宅ローンの支払いは考慮すべき
婚姻費用の算定表では、特別経費として標準的な住居関係費が考慮されているところ、妻は夫名義の自宅で暮らすことにより住宅関係費の支払いを免れています。
また、夫側は、住宅ローンの支払いだけでなく、新たに住居費を負担することになるので、二重の負担がのし掛かることになります。
よって、婚姻費用や養育費の算定にあたっては住宅ローンの支払いを考慮するべきです。
3 住宅ローン全額を控除するべきでない
では、婚姻費用や養育費の算定にあたっては住宅ローンの支払いを考慮するとして、どの程度考慮するべきでしょうか?
算定表に基づき算出された婚姻費用や養育費から住宅ローン全額を控除するとなれば、妻側が受け取る婚姻費用や養育費の金額は少なくなってしまう場合があります。
また、住宅は夫名義なので、住宅ローンを完済すれば、夫の資産になります。
つまり、住宅ローンの支払いは資産形成の側面があることを否定できません。
よって、婚姻費用や養育費の算出にあたり、住宅ローンの支払いを考慮するべきであるとしても、その全額を控除するべきではありません。
実務では、元妻の収入に対応する住居関係費の限度で控除する考え方が多いと思われます。
例えば、収入200万円未満の人の住宅関係費の平均は2万2247円となっています。そのため、権利者の年収が120万円の場合、算定表により計算した婚姻費用から2万2000円くらいを控除することになります。
なお、義務者側が住宅ローンを月10数万円支払っていた場合、わずか2万2000円しか引かれないので、義務者側からすれば不満が残ることがあります。
4 まとめ
このように、算定表で算出された婚姻費用や養育費から住宅ローン全額を控除することは妥当ではないとされています。
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