1 大阪地裁令和4年3月25日(自保ジャーナル2126号)
無申告の自営業者が交通事故に遭い、休業損害、後遺症逸失利益の基礎収入額が争われた事例について紹介します。
2 原告の主張
原告は平成8年頃から居酒屋を経営していました。原告の店は競合店がなく、原告の人気もあって繁盛し、調理師を1人常時雇用し、手伝いを1人雇用していました。
原告は事故前から確定申告をしていませんでした。
原告が本件事故による休業損害の仮払を受けるため、反訴原告の親族が、本件事故後、事故前年分を、売上高1081万5000円、売上総利益795万9226円、営業費経費315万5556円(給料賃金158万4600円,地代家賃33万6000円,接待交際費13万円、消耗品費15万6000円等)、所得480万3670円、健康保険1万7200円と白色申告しました。
原告は、休業損害や後遺障害逸失利益の基礎収入額は年額480万3670円であると主張しました。
3 被告の主張
総務省統計局編の個人企業経済調査によれば、症状固定時の飲食サービス業の平均は、売上高879万4000円/年、営業利益135万7000円/年、従業者数3.14人、営業利益率15.4%でした。
そこで、原告の事故後の確定申告によれば、売上1081万5000円・営業利益480万3670円であり、その営業利益率44.4%であり、一般的な営業利益率15.4%から大きく乖離する、などと主張しました。
4 裁判所の判断
裁判所は、原告の居酒屋は繁盛していたことなどを理由に、351万8200円/年(賃金センサス平成14年女・学歴計・全年齢)としました。
原告の主張については、事故後の確定申告の内容は信用できないなどとして排斥しました。
被告の主張については、「一般的に、個人事業主が申告する経費には家計が混入され、営業利益が低くなりがちで、特に飲食業では、その蓋然性が高いと考えられる。また、前記営業利益は、賃金センサスと比較して極めて低額であるから、これが平均的な基礎収入とは考えられない。」として排斥しました。
なお、被告の対人賠償保険会社は、原告の事故後の申告所得について、裏付けを求めることなく、長期間仮払いを続けていました。
そこで、原告は、訴訟になって争うことは信義則に反するとも主張していました。
これに対し、裁判所は、原告が確定申告等をしていなかったために発生した問題であること、加害者の対人賠償保険会社の仮払は損害費目の拘束を受けないこと、被告の対人賠償保険会社の仮払は重大な傷害を負う等した原告に対する慰謝料も含む趣旨のものと考えられることを理由に、原告の主張を排斥しました。