1 裁判所の後遺障害の判断について
一般論として、裁判所は、損害保険料率算出機構の判断に拘束されず、証拠に基づき後遺障害の該当性を判断することになります。もっとも、裁判所は、以下のとおり、損害保険料率算出機構の判断を尊重することになります。
すなわち、代表的な文献によれば「実際の訴訟においては、・・・後遺障害の内容はそれによる労働能力喪失率について、自賠責制度におけると同様の認定判断をすることが多い。自賠責制度の後遺障害認定手続における判断がされている場合には、特段の事情のない限りその認定に見合った後遺障害の存在とそれによる労働能力の喪失について、一応の立証ができた状態にあると考えられ、・・・実際の労働能力の喪失がこれを下回る旨等を主張する場合には被告側が反証として、それぞれの主張するところに沿って立証活動を行う負担を負う」とされています(交通損害関係訴訟(リーガル・プログレッシブ・シリーズ5)(佐久間邦夫・八木一洋編 2009年青林書院152頁以下))。
したがって、裁判所が、損害保険料率算出機構とは異なる判断をするケースは珍しいと思われます。
しかしながら、大阪地裁令和 3年 1月21判決(自保ジャーナル 2090号46頁)では、損害保険料率算出機構は、頚部痛などの症状につき「局部に神経症状を残すもの」として14級9号に該当すると判断しましたが、裁判所は、諸般の事情により非該当と判断しました。
以下、ポイントに絞って説明します。
2 事故態様について
裁判所は、「被告車の助手席のドアが、自転車のハンドルを握っていた原告の右手に右側やや後方からぶつかったというものであり、自転車のハンドルを握っている右手に右側やや後方から自動車のドアがぶつかったことにより、一定の衝撃があったとしても、その外力が頚部にまで及び、頚椎捻挫を起こすのかには疑問を差し挟む余地があ」るとしました。
また、「そもそも原告は、後ろから子供らが自転車で付いてきていたことから、ゆっくりとしたスピードで自転車を走行していたというのであるから、原告車の停止に際し、原告の頚部に過度の負荷が生じたとは、にわかに考え難」い、としました。
3 症状の経過について
事故日は平成28年1月17日でした。そして、裁判所は、「原告は、平成28年4月4日までは、医療機関において頚部痛を訴えていたが、その後は、頚部痛を訴えなくな」ったことからしても、「本件事故に起因する頚部痛が後遺障害として残存したと認めることは困難である。」としました。
原告が頸部痛を訴えていたのは3か月半ほどであったところ、後遺障害を認めるためには通院期間として短いと判断したものと思われます。