婚約当事者と性関係を持った第三者に対する慰謝料請求の過否が問題となりますが、近時の裁判例によれば特段の事情のない限り認められないとされています。
すなわち、東京地裁平成25年6月13日によれば、「婚約は,将来婚姻する旨の当事者間の合意であるところ,これによって,婚約当事者は,互いに誠意をもって交際し,婚姻を成立させるよう努力すべき義務を負い,その一環として互いに貞操義務をも負うものということができる。しかし,婚約当事者は婚姻すべき義務自体の履行が強制されることはなく,婚姻が成立するか否かは本来的に不確実であって,婚約当事者の地位はそのような不確実なものに対する期待権にすぎない。上記婚約当事者の貞操義務も,婚姻を成立させその後婚姻生活を継続させるという不確実な結果に向けられた義務の一環であるから,婚姻中の夫婦が互いに負う貞操義務と同等のものとはいえず,その内容を異にするというべきである。そうすると,第三者が婚約の成立を知りながらその一方当事者と性交渉をしたとしても,ただちに婚約の他方当事者に対する不法行為となるということはできず,他方当事者に対する特別の害意をもって婚約を破棄させることのみを目的としてこれを行ったとか,社会的相当性の範囲を逸脱した悪質な態様でこれを行ったというような場合でない限り,不法行為を構成しないというのが相当である」としています。