1 負担付き相続させる旨の遺言とは
例えば「遺言者はすべての財産を長男に相続させる」「前項の相続の負担として、長男は遺言者の次男の生存中、同人を扶養し、必要な医療を受けさせるとともに、次男に対し、生活費として、毎月〇日限り、月額〇円を支払わなければならない。」という遺言があったとします。この遺言は負担付き相続させる旨の遺言といいます。遺言者が障害のある次男が安定した生活を送ることができるようにするため、このような遺言を作成することがあります。
民法では、「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。」(1002条1項)と、負担付遺贈の定めがあるだけで、負担付き相続させる旨の遺言の規定はありません。もっとも、相続させる旨の遺言でも負担を付けることができると解されています。
2 負担付き遺贈の準用
ところで、負担付き遺贈の場合、「負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。」とされています(民法1027条)。
これに対して、負担付き相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)の場合、民法1027条のような定めはありません。もっとも、相続させる旨の遺言は遺産分割方法の指定ですが、その権利移転効果は遺贈と類似しています。そのため、負担付き相続させる旨の遺言にも民法1027条の規定は準用されると解されています。
よって、先の例では、次男は、長男が生活の援助をしなかった場合、長男に義務の履行を催告し、それでも援助が受けられなかったとき、家庭裁判所に対して遺言の取消しを求める申立てを行うことができます。
3 仙台高裁令和2年6月11日決定
この事案では、遺言には「生活の援助をすること」と抽象的に記載されていましたが、同決定は、原審と同じく、月3万円を援助する義務があると認めました。もっとも、たしかに相続人には計111万円の不履行があるが、遺言の文言が抽象的であり解釈が容易でないこと、相続人は今後も一切の履行を拒絶しているわけではないこと、義務の内容が確定すれば履行する意思があることからすれば、相続人の責めに帰することができない事情があり、遺言を取り消すことが遺言者の意思にかなうものではないとしました。
4 大阪地裁令和3年9月29日判決
民法1002条1項は「負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。」としています。この規定の類推適用が問題となった事案を紹介します。
この事案は、負担付きで相続させる旨の趣旨の遺言(相続人が土地3分の1を相続する代わりに他の相続人に金銭を支払う旨の遺言)がなされ、当該負担が特定の遺産の価格を超えるケースにおいて、他の相続人が相続人に対し代償金支払請求訴訟を提起しました。これについて、同判決は、遺言者の意思として相続分の指定をも伴うと解釈できる場合は1002条1項が類推適用される余地はなく、遺留分侵害額請求や相続放棄により調整されるべきであるが、そうではない場合は1002条1項が類推適用される余地があるとして、本件で類推適用を認めました(控訴審継続中)。