1 はじめに
助手席や後部座席に同乗していたが、シートベルトを装着しておらず交通事故に遭った場合、当該同乗者について過失相殺が認められるかが問題となります。
2 考え方
道路交通法上、運転者が同乗者にシートベルトを装着させる義務を負っており、同乗者に罰則は課されません(法71条の3第2項、3項)。そのため、同乗者に過失は認めないとする考え方が過去にありました。
しかし、現在では、シートベルトは生命身体を守る設備であること、装着が容易であること、シートベルト不装着が損害拡大に寄与した場合は損害の公平な分担の観点から同乗者にも一定の過失を認めるべきであること、から、同乗者にも相応の過失を認める裁判例が多いです。
過失割合については、5~10%の過失を認める例が多いです。
3 シートベルト装着の有無が争われた事例
名古屋地裁令和3年10月16日(自保ジャーナル2118号)において、原告側はシートベルト装着を主張していましたが、裁判所は「シートベルトを装着していれば、衝突があったとしても、肩ベルトにより上方への身体の動きが規制されるなどして、横転等のない本件事故により身体がシートベルトから抜け出すことは考えがたいところ、本件事故後に原告車から放出されたことは、原告が本件事故後にシートベルトを装着していなかったことを強く推認させる。」としました。
なお、この事案では、救急隊からの傷病者収容書にもシートベルトが着用されていなかったことが記載されており、このことも事実認定に使われました。