1 はじめに
相続開始前における相続人による預貯金の使い込み(①)であったり、相続開始後から遺産分割前の相続人による預貯金の使い込み(②)について、遺産分割調停では遺産分割の前提問題として処理されることになります。具体的には、相続法改正前であれば、①②について相続人全員で遺産の範囲に含める旨の合意がなされた場合、使い込まれたとされる預貯金は遺産分割の中で処理されることになります。反対に合意に至らなかった場合は遺産分割とは切り離されることになるので、使い込みがあったと主張する相続人が使い込んだとされる相続人に対して使途不明金請求をしていくことになります。では相続法改正後はどうなるでしょうか。
2 相続法改正後
①は改正後と改正前とで処理の仕方は変わりませんが、②は大きく変わります。具体的には、払戻しをした者が当該払戻額を遺産に含めることに同意した場合、遺産に含まれることになります(民法906の2第1項)。
また、払戻しをした者が同意しなくても、他の相続人全員が当該払戻額を遺産に含めることに同意した場合も遺産に含まれることになります(民法906の2第2項)。例えば相続人の一人が相続開始後に預貯金から葬儀費用相当額を引き出し、全額を葬儀費用に充てたとします。この場合、他の相続人が葬儀費用相当額を遺産に含めることに同意したとすれば遺産の範囲に含まれることになります。そうすると、相続人の一人は遺産分割において葬儀費用相当額をすでに受け取ったとされる、つまり相当額を見出ししたことになります。そのため相続人の一人は、他の相続人に対して葬儀費用の負担を求めることになります。