1 はじめに
例えば,A社がB社に対する100万円の売掛金を有していたが,支払いが30日後だったとします。A社は,流動資産がなく,仕入れや従業員に対する賃金の支払いなど運転資金が足りないので,速やかに売掛金を回収したいと考えたとします。このとき,A社は,C社に対し100万円の売掛金を80万円で譲渡することがあります。法形式としては債権譲渡契約になります。これが事業用ファクタリングと言われているものです。
2 メリット
流動資産が少ない事業者にとっては,速やかに売掛金をお金に換えることができる点がメリットといえます。また,いわゆる2者間ファクタリングの場合,売掛金の回収業務はA社が担うことになるので,B社はA社がファクタリングをしていることは分かりません。つまり,A社としては,取引先B社にファクタリングの利用を知られてしまうと,最悪のケースでは取引を停止される可能性があるので,B社に知られずに売掛金を早期に得ることができる点がメリットといえます。
なお,ファクタリング業者Cは,A社が売掛金を支払わなかった場合はB社に直接請求する必要がありますので,Aの代わりに債権譲渡通知を行ったり,債権譲渡登記を行うことになります。
3 デメリット
事業の経営が悪化していくことです。すなわち,A社は,本来であれば100万円の売掛金を回収出来たのに80万円しか回収できないことになるので,20万円の売上げを失うことになります。これを続けて行けば事業が次第に悪化していくことは目に見ています。実際にファクタリングを継続的に利用したことにより破産にまで至ったケースもあります。
4 実態は貸付け
ファクタリングは債権譲渡契約という法形式をとりますが,二社間ファクタリングの場合,実態としては80万円を借りて20万円の利息を支払うのと同じなので,貸付けと評価することができます。この場合,年利300%になります。よって,A社側は,利息制限法や貸金業法の違反を主張したり,あるいは暴利行為として民法90条の公序良俗違反を主張することが考えられます。さらに進んで,A社は,C社から受領した80万円について,いわゆる不法原因給付にあたるので返還義務を負わない可能性もでてきます。
なお、実質的に貸付けであると認定した裁判例もありますが、認容のハードルは高いようです。
5 リスクについて
弁護士がA社の代理人としてC社のようなファクタリング業者に対し,実質的には貸付けであるとして債権譲渡契約そのものが無効であるから売掛先のB社に請求しないよう促したとしても,C社は法形式を重視してあくまで債権譲渡契約にすぎないと主張し,B社に対し債権譲渡通知を行い,あるいは債権譲渡登記の写しを示して売掛金の回収を行うこともあります。そうすればB社は,A社がファクタリングを利用していたことを知ることになります。これは是非とも避けたいところですが,他方でこのリスクを考慮してファクタリングを使い続けると,いずれ破産を選択せざるを得なくなります。A社としては,B社に対しては事前に状況を説明して,理解を求めるなどをすることになりましょう。
6 最後に
以上,事業用ファクタリングについて説明しました。いわゆる給与ファクタリングについては,金融庁が貸付けであると公式見解を示しましたが,事業用ファクタリングは今のところ公式見解が示されていません。また裁判例も固まっていません。そのため,現状,現行法の解釈に基づきファクタリング業者と対峙していくことになります。お困りの方はイーグル法律事務所までご相談ください。