1 相続開始後発生した相続不動産の賃料債権
被相続人が亡くなった後に発生した遺産にかかる賃料債権について、被相続人の口座に振り込まれずに残存していた場合、この賃料債権は遺産とは別個の財産であり、遺産分割の対象とはなりません(最高裁平成17年9月8日)。
もっとも、例外的に、共同相続人の全員が遺産の範囲に含めることに合意した場合は、遺産分割の対象となります。
2 相続開始後に被相続人の預金口座に入金された賃料
では、相続開始後、被相続人の口座が凍結されずに賃料相当額が振り込まれていた場合は、どうでしょうか。
預金口座の入金の内容を逐一調査して、相続開始時の預金は遺産分割の対象となり、相続開始後に入金された賃料相当額は遺産分割の対象とはならないと処理する考え方もあります。
しかしながら、その処理方法は実際問題として煩雑に過ぎます。そこで、相続開始後の入金額も含めて一つの預金債権として、遺産分割の対象となると考えられています。
この点について、最高裁平成28年12月19日 大法廷決定の鬼丸かおる裁判官の補足意見では、「上記各債権は,口座において管理されており,預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り,同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在するのであるから,相続開始後に被相続人名義の預貯金口座に入金が行われた場合,上記契約の性質上,共同相続人は,入金額が合算された1個の預貯金債権を準共有することになるものと解される。そうすると,被相続人名義の預貯金債権について,相続開始時の残高相当額部分は遺産分割の対象となるがその余の部分は遺産分割の対象とならないと解することはできず,その全体が遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。」とされています。
補足意見ではありますが、実務ではこの意見に立脚する例も多いようです。