1 はじめに
道路の第2車線を走行していた四輪車(進路変更車)が第1車線に進路変更をし始めたところ、第1車線を走行していた四輪車(後続直進車)に衝突した場合の過失割合について説明します。
2 基本過失割合
東京地裁民事交通訴訟研究会(編集)『別冊判例タイムズ38』判例タイムズ社【153図】によれば、基本過失割合は、後続直進車が30、進路変更車が70となります。
進路変更車の過失は、進路変更の際、第1車両通行帯を進行する車両の進路を妨害しないようにすべき注意義務を怠ったことにあります(道路交通法26条の2第1項及び第2項)。
他方、後続直進車の過失は、前方を注視し、四輪車が進路変更することを予測すべき義務を怠ったことにあります。
3 合図がなかった場合
進路変更車が合図(ウインカー)を出さずに進路変更した場合、過失割合は、後続直進車が10、進路変更車が90となります。というのも、合図を出さずに進路変更した場合、後続直進車はその進路変更を予測することが難しくなるからです。
また、進路変更車は、進路変更する場合は3秒前にウインカーで合図しなければなりません(道交法施行令21条)。そのため、進路変更車両が、進路変更動作とほぼ同時に合図した場合に、合図の遅れを「合図なし」と同様に扱われることがあります(名古屋地裁令和3年11月24日・自保2117号)。
4 後続直進車が単車の場合
以上は四輪車同士の事故でしたが、後続直進車が単車の場合は、基本過失割合が異なります。すなわち、東京地裁民事交通訴訟研究会(編集)『別冊判例タイムズ38』判例タイムズ社【225図】によれば、単車の過失が20、進路変更四輪車の過失が80となります。単車は四輪車の比較して交通弱者だからです。
5 進路変更車の合図なしとした裁判例
徳島地裁令和3年10月8日(自保ジャーナル2112号)をご紹介します。
この事案は、片側3車線の国道の第3車線を走行していた四輪車が、路外の駐車場に入るため、合図を出して進路を左に変更し、第2車線、第1車線を横切ろうとしたところ、第1車線を走行していた単車の側面に衝突した事案でした。
裁判所は、事故状況からすれば、直進単車が進路変更四輪車の合図が路外にまで出ようとする合図と認識することは著しく困難である、実質的には合図なしであるとし、直進単車の過失なしとしました。