1 はじめに
事実状の監護者が監護者指定の申立てを行うことができるかが争われた裁判例を紹介します。
2 原審
大阪高裁令和2年1月16日決定(以下「大阪高裁決定」)は、①事実上の監護者である祖母が親権者である実母に対して監護者指定の申立てを行うことができる(論点①)、②実母による監護権の行使を認めると未成年者の健全な成長を阻害することから、祖母が監護者と指定されるべきである(論点②)としました。
以下、論点①、論点②について詳しく説明します。
まず論点①については、大阪高裁決定は、民法766条を直接適用できないため、同条の法意を根拠として、事実上監護してきた祖母も監護者指定の申立てができるとしました。
次に論点②についてですが、大阪高裁決定は、祖父母が監護者に指定されるのは、祖父母が監護者となることにより親権者による親権行使に制約が生じることの不利益性を考慮し、新権行使に重大な制約を伴うことになったとしても子の福祉の観点からしてやむを得ない場合に限定されるとしました。大阪高裁決定は、親権者の親権行使を制限する規定(民法834条や835条)を参考に要件を定立したのではないかとされています。
4 最高裁
令和3年3月29日最高裁決定は、事実上の監護者である祖父母は監護者指定の申立てをすることができないとしました。理由としては、①事実上の監護者が監護者指定の申し立てができると定めた規定はないこと、②事実上の監護者を父母と同視することができないことを考慮し、民法766条が適用又は類推適用されることはないとしました。
5 残された問題
最高裁によれば、父母による親権の行使が不適当な場合、父母自らが監護者指定の申立てを期待することはできないので、子の福祉を実現することができないことになるという指摘があります。この指摘については次のような対処が考えられるとされています。
すなわち、父母の新権行使が不適当な場合、民法は、「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するときは、家庭裁判所は、子、その親族、未成年後見人、未成年後見監督人又は検察官の請求により、その父又は母について、親権停止の審判をすることができる。」(民法834条の2)。としています。
また、家事事件手続法では、「家庭裁判所(第百五条第二項の場合にあっては、高等裁判所。以下この条及び次条において同じ。)は、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てがあった場合において、子の利益のため必要があると認めるときは、当該申立てをした者の申立てにより、親権喪失、親権停止又は管理権喪失の申立てについての審判が効力を生ずるまでの間、親権者の職務の執行を停止し、又はその職務代行者を選任することができる。」としています。
そこで、事実上の監護者である祖父母は、父母の親権行使が不適当な場合は、親権停止の審判を申し立てるとともに、審判の効力が生じるまでの間の親権者の職務執行停止、職務代行者の選任の保全処分の申立てをすることができます。
また、民法では、後見は、「未成年者に対して親権を行う者がないとき」に開始するとされています(838条1号)。
そして、「前条(筆者注:839条)の規定により未成年後見人となるべき者がないときは、家庭裁判所は、未成年被後見人又はその親族その他の利害関係人の請求によって、未成年後見人を選任する。」(840条1項)とされています。
そこで、事実上監護者していた祖父母は、未成年後見人に選任されることにが可能となります。これにより、父母の親権行使が不適当な場合でも、子を保護することは可能となります。
6 参考(父母以外の第三者の面会交流)
父母以外者の第三者が面会交流の審判を申し立てることができるかについて、最高裁では、上記最高裁と似た理由により、認められないと判断しました(最高裁令和3年3月29日)