交通事故で通院した際の慰謝料には「3つの基準」があり、どの基準で計算するかによって、受け取れる金額が変わります。
同じケガ、同じ通院期間でも、知らないまま示談してしまうと、本来もらえるはずだった数十万円、場合によっては100万円以上を失ってしまうことがあるのです。
当事務所でサポートした50代のAさんは、保険会社の提示額26万円から、最終的に53万円に増額できました。
この記事では、通院慰謝料の相場と計算方法を、法律の知識がない方にも分かるように丁寧に解説します。
なぜ同じケガでも通院慰謝料が2倍も3倍も違うのか
日本の交通事故における通院慰謝料には、実は3つの異なる算定基準が存在しています。
それが「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準(裁判所基準)」です。
どの基準を使うかによって、受け取れる金額が変わるのです。
自賠責保険基準(最低限の補償)
自賠責保険基準は、すべての車が加入を義務付けられている強制保険の基準です。「最低限の補償を確保する」ことが目的なので、金額は最も低く設定されています。
特に重要なのは、この自賠責保険には被害者1人につき120万円が上限という厳しい制約があり、この120万円の中には慰謝料だけでなく、治療費、診断書代、通院交通費なども全て含まれるという点です。
任意保険基準(保険会社の独自基準)
任意保険基準は、各保険会社が独自に設定している社内基準です。かつては業界統一の基準がありましたが、現在は各社バラバラで非公開となっています。
ただ、一般的には自賠責基準とほぼ同じか、わずかに上乗せした程度の金額であることがほとんどです。
弁護士基準(裁判所基準)
そして弁護士基準(裁判所基準)は、過去の膨大な裁判例から導き出された、「もし裁判になったら認められる金額」の基準です。
日本弁護士連合会が発行する『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称「赤い本」)という書籍に掲載されており、法的な正当性が最も高い基準といえます。金額は3つの中で最も高額になります。
保険会社が提示する金額の実態
ここで知っておいていただきたい重要な事実があります。
保険会社が被害者に最初に提示してくる示談金は、通常「任意保険基準」、つまり最も低い水準の金額なのです。ここで何も知らずに示談してしまうと、本来もらえるはずだった「弁護士基準」との差額を丸々失うことになります。
「でも、具体的にどれくらい違うの?」と疑問に思われたことでしょう。
次の章で、実際の金額を表で見ていきましょう。
通院慰謝料の相場早見表
まず、具体的な金額イメージを掴んでいただくため、代表的なケースでの慰謝料相場を表でご覧ください。
むちうち等の軽傷の場合
| 通院期間 | 通院日数(目安) | 自賠責基準 | 弁護士基準 | 差額 |
| 1ヶ月 | 10日 | 約8.6万円 | 19万円 | +10.4万円 |
| 3ヶ月 | 30日 | 約25.8万円 | 53万円 | +27.2万円 |
| 6ヶ月 | 60日 | 約51.6万円 | 89万円 | +37.4万円 |
骨折等の重傷の場合
| 通院期間 | 通院日数(目安) | 自賠責基準 | 弁護士基準 | 差額 |
| 1ヶ月 | 10日 | 約8.6万円 | 28万円 | +19.4万円 |
| 3ヶ月 | 30日 | 約25.8万円 | 73万円 | +47.2万円 |
| 6ヶ月 | 60日 | 約51.6万円 | 116万円 | +64.4万円 |
※自賠責基準は「実通院日数×2×4,300円」で計算した場合の概算です。
この表のように軽傷でも重傷でも、弁護士基準は自賠責基準の2倍から3倍近い金額になります。特に重傷で治療が長期化するほど、その差額は大きく開いていきます。
では具体的なケースでは、実際にどう計算されるのでしょうか?
【ケース1】むちうちで3ヶ月通院――計算方法の違いを徹底解説
最も多い交通事故のお怪我が、追突事故などによる「むちうち(頸椎捻挫)」です。
50代の会社員Aさんが、信号待ちで後ろから追突され、むちうちになったケースで、詳しく見てみましょう。
Aさんは3ヶ月間(90日間)、整形外科に通院しました。お仕事の合間を縫って、週2〜3回のペースで通い、トータルで30日通院しました。この場合の慰謝料は、基準によってこれだけ違います。
自賠責基準での計算
自賠責基準では、独特の計算方法が使われます。日額4,300円という固定単価を使いますが、次の2つの計算式のうち「少ない方」を採用するルールがあります。
計算式①:全治療期間で計算
90日×4,300円=387,000円
計算式②:実通院日数で計算
30日×2×4,300円=258,000円
結果、少ない方の25万8千円が慰謝料となります。
弁護士基準での計算
弁護士基準では、通院3ヶ月の場合の基準額は53万円です。計算式ではなく、通院期間に応じた金額表から直接読み取る形になります。
比較結果
| 基準 | 慰謝料額 |
| 自賠責基準 | 約26万円 |
| 弁護士基準 | 53万円 |
| 差額 | +27万円 |
同じ3ヶ月の通院なのに、実に2倍以上、金額にして27万円もの差が生まれるのです。
Aさんは当初、保険会社から26万円の提示を受けていましたが、弁護士に相談した結果、53万円を獲得することができました。
ここまでで、基準による違いはお分かりいただけたでしょうか。
でも、実はもう一つ、知っておいていただきたい重要なポイントがあります。
それが「通院日数」による変動です。
次の章で詳しく見ていきましょう。
通院の仕方で慰謝料が変化
実は、慰謝料の金額は「どれだけ通院したか」によっても大きく変動します。特に自賠責基準では、この影響が顕著です。
同じ3ヶ月の治療期間でも、お仕事が忙しくて月に3回程度(3ヶ月で計10日)しか通院できなかった場合を見てみましょう。
通院日数が少ない場合の計算
自賠責基準を使った時
計算式①:全治療期間で計算
90日×4,300円=387,000円
計算式②:実通院日数で計算
10日×2×4,300円=86,000円
少ない方が採用されるので、慰謝料はわずか8万6千円に激減します。週2〜3回通った場合の26万円と比べて、3分の1以下です。
弁護士基準を使った時
弁護士基準でも、通院日数があまりに少ない場合は調整が入ります。実通院日数を3倍した日数を「実質的な通院期間」とみなす運用があり、10日×3=30日、つまり1ヶ月相当として計算されることがあります。この場合、弁護士基準でも19万円程度になる可能性があります。
それでも、自賠責基準の8万6千円と比べれば2倍以上の金額です。
通院ペースの重要性
| 通院日数 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
| 30日(週2〜3回) | 約26万円 | 53万円 |
| 10日(月3回程度) | 約8.6万円 | 約19万円 |
この計算からわかるのは、適切な治療を受けるためにも、賠償の観点からも、可能な限り週2回以上のペースで通院を続けることが重要だということです。
お痛みがあるのに我慢して通院を控えると、慰謝料が大幅に減額されるだけでなく、治療そのものにも支障が出ます。
「こんなに頻繁に通って、迷惑じゃないかしら…」と遠慮される方もいらっしゃいますが、その心配は不要です。お身体のためにも、きちんと通院を続けてください。
ここまでは、むちうちのような軽傷のケースを見てきました。
では、骨折のような重傷の場合はどうでしょうか?
実は、重傷のケースには注意点があります。
【ケース2】骨折で6ヶ月通院―120万円の壁
40代のBさんは、バイク事故で脚を骨折し、ギプス固定やリハビリで6ヶ月(180日)通院しました。月10回ペースで、トータル60日通院したとします。
自賠責基準での計算と現実
自賠責基準では、骨折でもむちうちでも日額4,300円は同じです。
計算式①:全治療期間
180日×4,300円=774,000円
計算式②:実通院日数
60日×2×4,300円=516,000円
計算上は約52万円となります。
しかし、ここに重大な注意点があります。
骨折で手術を受け、入院し、6ヶ月も通院すれば、治療費だけで100万円近く、場合によってはそれ以上かかります。先ほどお伝えしたように、自賠責保険の120万円という上限には、慰謝料だけでなく治療費も含まれます。
つまり、治療費が100万円かかった場合、残りは20万円しかなく、計算上は52万円もらえるはずの慰謝料も、実際には20万円以下、あるいは実質0円になってしまうのです。
これが自賠責保険の「120万円の壁」です。
弁護士基準での計算
一方、弁護士基準では、骨折などの重傷の場合、むちうちとは別の算定表(「別表Ⅰ」と呼ばれる重傷用の表)が使われます。通院6ヶ月の重傷ケースでは116万円が基準額です。
しかも、弁護士基準には120万円という上限はありません。加害者が対人賠償無制限の任意保険に加入していれば、治療費が100万円かかっていても、慰謝料116万円は満額支払われます。
比較結果と重要なポイント
| 基準 | 慰謝料額 |
| 自賠責基準 | 実質0円〜20万円(治療費で枠が埋まるため) |
| 弁護士基準 | 116万円(満額支払われる) |
| 差額 | +約100万円以上 |
自賠責基準では治療費に枠を食われて慰謝料が実質0円になる可能性があるのに対し、弁護士基準では116万円が確実に受け取れます。この差は歴然としています。
重傷のケースこそ、弁護士基準で請求することが絶対に必要なのです。
「でも、骨折のような重いケガじゃないと、弁護士に相談してはいけないのでは…」と思われたかもしれません。
そんなことはありません。むちうちでも、通院期間が3ヶ月以上になれば、基準の差は数十万円になります。遠慮なさらず、まずはご相談いただくことをおすすめします。
適正な慰謝料を受け取るための3つのポイント
ここまで見てきたように、通院慰謝料は「どの基準で計算するか」によって金額が大きく変わります。ご不安ですよね。
では、適正な補償を受け取るために、何をすればよいのでしょうか。
押さえておくべきポイントは、以下の3つです。
1. 保険会社からの提示額が「どの基準」なのかを確認する
最初の提示は多くの場合、自賠責基準か任意保険基準という低い水準です。
それが上限ではなく、弁護士基準という法的に正当な高い基準が存在することを知っておくべきです。提示額を見たら、まず「この金額は弁護士基準と比べてどうなのか」を確認してください。
「こんなことで弁護士に相談してもいいのかな…」と思われるかもしれませんが、その遠慮は不要です。初回相談は無料で承っておりますので、どうぞお気軽にお問い合わせください。
2. 通院をきちんと継続する
慰謝料は通院期間と通院日数に基づいて計算されます。
お痛みがあるのに我慢して通院を控えると、慰謝料が大幅に減額されるだけでなく、治療そのものにも支障が出ます。可能な限り週2回以上は通院するのが理想的です。
お仕事や家事でお忙しいことと思いますが、ご自身のお身体のためにも、できる限り通院を続けてください。
3. 重傷の場合は早めに専門家に相談する
骨折などの重傷の場合は、基準の違いによる金額差が数十万円から100万円以上になることも珍しくありません。
特に重傷のケースでは、自賠責の120万円の壁に阻まれて慰謝料がほとんどもらえない事態も発生します。弁護士に依頼すれば、弁護士基準での交渉が可能になり、費用を差し引いても大幅な増額が見込めます。
また、弁護士費用特約をお使いいただければ、費用の負担もありません。一度、ご自身の保険証券をご確認されることをおすすめします。
よくあるご質問(FAQ)
Q1. 交通事故の慰謝料は、いつもらえますか?
A. 示談が成立した後、通常1〜2週間以内に振り込まれます。
ただし、示談成立までには事故から3〜6ヶ月程度かかることが一般的です。通院期間が長引けば、それだけ示談までの期間も長くなります。
なお、治療が終わっても症状が残り、後遺障害の認定を申請する場合は、症状固定後の認定を待つため、1年以上かかることもあります。
Q2. 弁護士費用はいくらかかりますか?
A. 弁護士費用特約をご利用いただければ、原則として費用負担はありません。
特約がない場合でも、完全成功報酬制で対応可能です。つまり、増額できた分から費用をいただく形ですので、持ち出しのご負担は最小限に抑えられます。
初回相談60分は無料ですので、まずはお気軽にご相談ください。費用の詳細についても、丁寧にご説明いたします。
Q3. 示談書にサインした後でも、増額できますか?
A. 原則として、示談書にサイン後の増額は困難です。
ただし、示談後に新たな後遺症が判明した場合など、例外的に請求できるケースもあります。
そのため、示談書にサインする前に、必ず弁護士にご相談されることを強くおすすめします。「こんなこと聞いてもいいのかな…」という質問こそ、遠慮なくお聞きください。
Q4. 軽いむちうちでも、弁護士に相談していいですか?
A. もちろんです。むちうちでも、通院期間が3ヶ月以上になれば、基準の差は数十万円になります。
「こんな小さなケガで…」と遠慮される方も多いのですが、その必要はありません。初回相談は無料ですので、まずはお話を聞かせてください。
Q5. 過失割合が高いと、慰謝料はもらえないのですか?
A. 過失割合が高くても、慰謝料は請求できます。
ただし、ご自身の過失割合に応じて減額されます。例えば、過失が40%の場合、慰謝料は60%に減額されます。
なお、自賠責保険では、過失が7割未満であれば減額されないという特例があります。過失割合が問題になる事故では、どの基準で請求するのが有利かを、弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故に遭われて、身体の痛みだけでなく、今後の生活や賠償についても、ご不安な日々を過ごされていることと思います。
一人で抱え込まず、まずは私たちにご相談してみませんか?
正しい知識を持つことで、あなたも適正な補償を受け取る権利を行使できます。それが、お痛みに耐えながら治療を続けてこられたあなたが、当然受け取るべき対価なのです。
※慰謝料以外にも請求できる賠償金について
この記事では通院慰謝料に焦点を当てて解説しましたが、交通事故の損害賠償には他にも以下のような項目があります。
- 治療費: 診察料、投薬料、手術費用など
- 通院交通費: 病院への交通費
- 休業損害: お仕事を休んだことによる収入減少分(専業主婦・主夫の方も対象)
- 逸失利益: 後遺障害により将来の収入が減る分の補償
これらは慰謝料とは別に請求できる項目です。示談交渉の際は、慰謝料だけでなく、これらの項目も漏れなく請求することが大切です。
詳しくは、お気軽にご相談ください。

